臨床スタートガイド

心理検査の時、心理士は何をどうみているか

心理検査は、受検者の心理的な特性を多角的に理解し、より適切な支援を検討するための重要な手がかりとなる専門的なツールです。

検査を実施する心理士(師)は、数値データに加えて、受検者の様子や反応を丁寧に観察します。これは、検査結果を深く解釈し、個別性に応じた支援につなげるために欠かせないプロセスです。

この記事では、心理検査の際に心理士が注目している観察ポイントを、具体的にご紹介します。

検査への取り組み方・態度

意欲・集中力

検査に積極的に取り組んでいらっしゃるか
指示をしっかりと理解しようとされているか
集中を持続されているか

努力の程度

難しいと感じられる問題や課題に対して、粘り強く取り組んでいらっしゃるか
安易に回答を済ませようとされていないか

反応時間

質問や課題に対して、すぐに反応されるか
じっくりと考え込まれるか
もし反応が遅い場合には、理解に時間を要しているのか
何かためらいがあるのか

教示の理解度

指示や説明を正確に理解されているか
必要に応じて質問をされるか

検査に対するご様子

表情、姿勢、声のトーン、発汗、落ち着きなど
検査に対する緊張や安心感など

協力性

検査者の指示に沿って検査を進めていただいているか

言葉による表現

発言内容

質問への直接的なご回答に加えて、関連するお話やご自身の体験などを話される場合、その内容や流れを注意深くお伺いいたします。

話し方

声の大きさ、速さ、トーン、明瞭さ、流暢さ

言葉の選び方や、もしどもりや言い淀み

感情表現

話されている内容に合わせて適切な感情が表れているか
感情の表出が少ない、または豊かであるか

非言語的要素との一致

話されている内容と表情や身振り手振りが一致しているか
話されている内容と表情や身振り手振りに異なる点がないか

言葉によらない表現

表情

喜び、悲しみ、怒り、驚き、恐怖、嫌悪といった基本的な感情が適切に表れているか
表情の変化が少ない、または硬い印象を受けるか

視線

検査者や検査用紙を適切にご覧になっているか
視線を合わせにくい、または逆に強く合わせようとされている

姿勢

背筋を伸ばしていらっしゃるか
やや前かがみになっているか
落ち着かない様子で体を動かされているか

身振り手振り

話される際に身振り手振りを伴うか
その大きさや頻度、質

生理的な反応

発汗、顔の赤み、呼吸の速さ、手の震えなど
緊張やご不安を示唆するような生理的な反応が見られないか

その他の観察ポイント

服装・身だしなみ

清潔感があるか
年齢や場面に合った服装をされているか

これは受検者の方の管理能力や社会生活への適応の一側面を示す可能性として考慮します。

検査環境への適応

検査室の雰囲気に落ち着いていらっしゃるか
過度に警戒されているご様子はないか

特異な行動

繰り返し同じ行動をする
意図せず体を動かす
ご自身を傷つけるような行動などが見られないか

観察の意図と注意点

心理士(師)はこれらの様々な観察を通して、受検者の方の認知機能、感情、性格の傾向、
対人関係、行動の特性などを、より総合的に理解しよう
と努めています。

大切なことは、一つの観察結果のみで判断しないことです。

検査結果の数値データや他の観察情報と合わせて、慎重に解釈を進めます。

また、受検者の方の文化的背景や発達段階なども考慮に入れながら、多角的な理解を目指しています。

心理検査における観察は、受検者の方への理解を深め、より適切な心理的なサポートを提供するための、非常に重要なプロセスです。

若手心理士のみなさんへ

私たち心理士(師)が受検者の方の全体像を理解しようと努めるのと同様に、受検者の方もまた、検査者である私たちを観察し、この心理士は信頼できる人物かを見極めようとしていらっしゃるという視点は、常に心に留めておく必要があるでしょう。

この点を深く認識し、受検者の方がご自身の力を最大限に発揮し、その方らしさを検査の場で十分に表現できるよう、心理士(師)としてどのように「居る」べきか。

今回の記事が、私たち自身のあり方を改めて見つめ直す一助となれば幸いです。

この記事をご覧いただいた皆さまへ

本記事は、心理臨床の専門家の方々を対象として執筆しています。専門的な内容を含むため、心理臨床を専門としていない方には、少しわかりにくく感じられるところがあるかもしれません。できるだけ誤解のないように、丁寧に言葉を選びながら書いております。ご理解いただけますと幸いです。

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