カテゴリー③

説明できる?偏差IQと比例IQの違い(ウェクスラー式とビネー式の違い)

私たちは心理臨床コミュニティTicekt.を運営する臨床心理士・公認心理師です。

過去の記事では、「心理検査の時、心理士は何をどうみているか」や「心理検査と受検者の心情とそれに対する心理士に求められる姿勢」について紹介してきました。

今回は、知能検査で表されるIQについて、解説していきたいと思います。

IQ:よくある質問

時折、検査を受けられた保護者の方から

保護者
保護者
この前受けたビネーでは、今回のWISCのIQより10以上高い数値だったのですが、どっちが正しいんですか?

保護者
保護者
ビネーとWISCの違いは何ですか?

といった質問を受けること、ありませんか?

普段、知能検査を実施している方であれば、こうした質問はよくあるものだと思います。

心理臨床初学者の皆さんの中には、このような質問に戸惑ってしまったという方も少なくないのではないでしょうか。

今回の記事はこうした質問にもスムーズに対応できるようになるヒントが含まれているかと思います。よろしければ、引き続き以下の文章もご覧ください。

タイトルにある通り、IQには偏差IQ比例IQの2種類があることはご存知でしょうか。

偏差IQと比例IQは、どちらも知能検査の結果を表す指標ですが、その算出方法と意味合いに大きな違いがあります。

このことをよく理解しておくと、前述の保護者の方の質問にもスムーズに対応することができるでしょう。

偏差IQ:ウェクスラー式

偏差IQとは

同じ年齢の集団の中でどの程度の位置にあるか

を表した数値のことです。

つまり、その方の

同年齢の集団内での位置

を表しています。

比例IQ:ビネー式

比例IQとは

何歳程度の発達ができているか

を表した数値のことです。

つまり、その方の

生活年齢に対する精神年齢の比率

を表しています。

偏差IQと比例IQの違い

両者の違いをまとめると以下のようになります。

特徴 比例IQ 偏差IQ
算出方法 (精神年齢 ÷ 生活年齢) × 100 同年齢集団内での相対的な位置
基準 生活年齢に対する精神年齢の比率 同年齢集団の平均と標準偏差
意味合い 知能の発達が年齢に比例するという考え方に基づく 同年齢集団の中でどの程度の知的水準にあるかを示す

このように、偏差IQと比例IQでは、数値の算出方法も異なりますし、数値の表す意味も異なります。

どっちの数値が正しいの?の答え

では、冒頭での保護者の方からのよくある質問

保護者
保護者
この前受けたビネーでは、今回のWISCのIQより10以上高い数値だったのですが、どっちが正しいんですか?

に立ち返ってみましょう。

結論としては、

心理士
心理士
そもそも算出方法が違うため、両検査のIQの数値を単純に比較することはできません。どちらが正しい、というようなものではありません。

というのが答えです。

例を用いて考えてみよう

例えば、10歳のAさんが、WISCとビネーの両検査を受検し、両検査ともIQが「80」だったとします。

(*実際にはビネーの方が10程度、数値が高く出やすいと言われていますが、今回は同数値と仮定して考えてみます)

WISCの場合の「80」という数値は

10歳の集団の中に属した時、Aさんは平均の下の位置

にいることを意味します。

ビネーの場合の「80」という数値は

Aさんの精神年齢は10歳を100%とした時、80%の発達

 =(だいたい8歳ぐらいの発達段階)

にいることを意味します。

このように、同じ「80」という数値でもそれぞれのIQが表す意味が異なるため、単純に比較することが難しいのです。

前述の保護者の方の「ビネーの方が10以上高い数値だった」というようなことをおっしゃられた時には、

心理士
心理士
精神年齢的には〇歳ぐらいの発達ではあるようですが、集団の中で考えた時には相対的にこれくらいの位置にいる、ということが言えます

と解説できるのではないでしょうか。

この解説に加え、その方のWISCの各主要指標得点や下位検査の評価点まで目を向けると、精神年齢だけでは捉えられなかった、その方の生活を難しくさせている要因がどこにあるのかのヒントも見えてくると思います。

まとめ

今回は、偏差IQと比例IQについてまとめて解説してきました。それぞれの特徴を理解した上で、検査結果のフィードバックが行えるようになると、その方の理解もより深まるのではないでしょうか。

フィードバック面接においては、数値の意味を理解した上で、日常起こりうる事象やエピソードとのすり合わせを行い、一緒に対策を練ることができると、よりその方の日常生活に活きる検査結果になるのではないかと思います。

偏差IQにしても比例IQにしても、その方の一側面を捉えるためのヒントにしかなりません。日常生活の様子を丁寧に拾い上げながら、検査の結果とすり合わせ、より整合性のある所見作成・フィードバックができるようになりたいですね。

ここで提供する記事は、心理臨床の専門家の方々を対象としています。専門的な内容を含むため、心理臨床を専門としていない方々には情報を正しく受け取っていただくのが難しい場合もございます。意図しないニュアンスで伝わることがないよう願っています。なお、当サイトにおいては、個人的なご相談に関するお問い合わせはお受けできかねますので、ご了承ください。