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面接中の沈黙をどう捉えるか?:心理士のための沈黙とのつきあい方

心理面接の中で訪れる沈黙に、戸惑いや不安を感じる初学者の心理士さんは少なくありません。

何を話せばいいのか
クライエントさんは何を考えているのだろう…

そんな風に感じてしまうかもしれませんね。

クライエントさんが何も言わなくなると、急に時間が止まったような感覚に襲われる…など

初学者の頃、
何か言わないと
この空気、埋めなければ
――そんなふうに焦ったり、不安になったりするのは、とても自然な反応です。

しかし、沈黙は決して怖いものではなく、むしろ面接をより深く、豊かなものにするための大切な手がかりでもあります。

この記事では、心理面接における沈黙の種類とそれぞれへの対応の仕方についてご紹介します。

沈黙は「意味のある現象」

面接中に起きる沈黙を、「気まずい沈黙」や「セラピストの失敗」と受け止めてしまうと、どんどん沈黙が怖くなってしまいます。

しかし沈黙は、
クライエントさんの心の動きが言葉になる前の、大切なプロセスであることが少なくありません。

沈黙には“意味”があります。

そして、
その意味を理解しようとする姿勢が、心理士としての成長につながっていくのだと思います。

沈黙には3つのタイプがある

沈黙に対する怖さをやわらげるカギは、沈黙を「分類」できるようになることです。

以下の3つのタイプを知っておくだけでも、沈黙への向き合い方がぐっと変わります。

  1. 内省的沈黙:自分の内面を整理している時間
  2. Thの発話を待っている沈黙:心理士の反応をうかがっている
  3. 関係性の中での沈黙:怒りや不信感などの陰性感情が背景にある

では、それぞれのタイプの特徴と対応のポイントについて、以下で紹介します。

①内省的沈黙:クライエントさんの「考える時間」を大切にする。

この沈黙は、クライエントさんが自分の心の中で何かを深く考えたり、感じていることを整理したりしているときに訪れます。

まるで心の奥底にある感情や思考を探しているような、大切な「内省の時間」であり、クライエントさんの中で心理的な作業が進んでいる証拠でもあります。

この沈黙の最中にThが無理に声をかけてしまうと、せっかくの内省の流れを妨げてしまうことも…。

  • 無理に話しかけない

  • 静かに見守ることが、内省を支える

  • 声をかけるなら、オープンな問いかけを優しく

心理士としての対応

この沈黙は、無理に破る必要はありません。

クライエントさんが自分自身と向き合う貴重な時間を静かに見守り、尊重することが大切です。

焦らず、クライエントさんのペースに寄り添いましょう。

もし、言葉をかける必要があると感じたら、

今どんなことを考えていらっしゃいますか?
今どんな感覚が身体の中をめぐっていますか?

等といったオープンな問いかけを、穏やかな声で投げかけることもできます。

ただし、すぐに答えを求めるのではなく、クライエントさんが話したいときに、安心して話せるような雰囲気作りを心がけましょう。

②Thの発話を待っている沈黙:クライエントさんの「次」を促す。

この沈黙は、クライエントさんが次に心理士が何を言うのか、どのような働きかけをするのかを待っているときに現れます。

例えば、あなたの質問への返答を待っていたり、これまでの話への共感や承認を求めていたり、あるいは次の話題への導きを期待している場合もあります。

沈黙が続くことで心理士が不安になるように、クライエントも“手ごたえ”を探しているのかもしれません。

  • 共感やねぎらいの言葉を返す

  • 話の流れを要約して整理する

  • 次の話題へと誘導する問いかけも有効

心理士としての対応

この沈黙では、クライエントさんの「待ち」に応える働きかけが求められます。

クライエントさんの話に共感を示す言葉を伝えたり、質問に対する補足説明を加えたり、次の話題へとスムーズに移行できるよう促したりします。

クライエントさんが話しやすいように、具体的な問いかけや、これまでの話を簡潔にまとめるような発言も有効です。

もし迷ったら、

話してみて、今、改めて思うことはどんなことでしょうか
他に話しておきたいこと等はありますか

等と優しく尋ねてみるのも良いでしょう。

求められているのは、必ずしも“言葉”とは限りません。

うなずきや視線、表情など、非言語的な応答も大切にすると良いでしょう。

③関係性の中での沈黙:言葉にならない感情に寄り添う

この沈黙は、クライエントさんが心理士(Th)との関係性の中で、言葉にしにくい不満、抵抗、あるいは複雑な感情を抱いているときに現れることがあります。

直接的な言葉にならないものの、その沈黙自体が、クライエントさんの心の中にある葛藤や、伝えたいけれど伝えられない気持ちを映し出している場合があります。

クライエントさんにとって、ことばにできない感情があるとき、沈黙はとても強いメッセージになります。

  • まずはセラピスト自身が落ち着く

  • クライエントの葛藤を探索的に問いかける

  • 感情を受け止め、否定しない態度で

心理士としての対応

このような沈黙に直面した時、まず心理士自身が自身の感情に気づき、落ち着いて向き合うことが重要です。

その上で、

もしかしたら、私の何かに対して、言葉にしにくい感情を抱いていらっしゃるのかなと感じましたが…?
今、私に何か伝えたいけれど、どう表現したらいいか迷っていらっしゃることはありませんか?

といったように、
クライエントさんの感情を探索するような言葉を、率直かつ穏やかに伝えてみましょう。

クライエントさんの抵抗や不満といった感情を、批判せずに受け止める姿勢が、
沈黙の奥にある気持ちを引き出す大切な一歩となります。

そして、この沈黙は、面接関係(治療同盟)をより強固なものにするための、重要な転換点となる可能性を秘めています。

沈黙のタイプを見極める視点

沈黙が訪れたとき、まずは次のように自問してみてください。

  • これは内省的な沈黙?

  • 何か私の反応を待っている?

  • 関係性の中での何かが表れている?

こうした視点をもつだけで、沈黙を単なる「空白」ではなく、意味のあるプロセスとして捉えることができます。

まとめ:沈黙を「味方」に

沈黙に不安を感じるのは、あなたが真剣にクライエントさんに向き合おうとしている証拠です。

だからこそ、沈黙と出会ったときには「どうしたらいいんだろう」と迷い、学び、成長していけるのです。

沈黙は一見同じように見えても、その背景には様々な意味が隠されています。

これらの沈黙の種類を意識するだけで、面接中の沈黙に対するあなたの見方は大きく変わるはずです。

面接中に沈黙が訪れたとき、ただ焦ってしまうのではなく、自分に問いかけてみてください。

この沈黙はどのタイプだろう?

そう考えるだけで、沈黙が“怖いもの”から“意味を持った現象”へと変わっていきます。

そして少しずつ、沈黙の時間にも安心していられるようになるはずです。

沈黙を恐れるのではなく、むしろクライエントさんの心の声に耳を傾けるための大切なヒントとして捉えることができれば、あなたの心理面接はより深く、実り多いものとなっていくはずです。

 

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