カテゴリー③

心理検査の時、心理士は何をどうみているか

私たちは心理臨床コミュニティTicekt.を運営する臨床心理士・公認心理師です。

ここで提供する記事は、心理臨床の専門家の方々を対象としています。専門的な内容を含むため、心理臨床を専門としていない方々には情報を正しく受け取っていただくのが難しい場合もございます。意図しないニュアンスで伝わることがないよう願っています。なお、当サイトにおいては、個人的なご相談に関するお問い合わせはお受けできかねますので、ご了承ください。

心理検査は、受検者の方の心理的な側面を多角的に把握し、より良いサポートを検討していく上での基礎資料となる重要なツールです。

検査を実施する心理士(師)は、結果の数値と合わせて、検査に取り組まれる皆様のご様子を丁寧に観察させていただきます。

これは、検査結果をより深く理解し、受検された方一人ひとりに合った支援へと繋げるために欠かせない視点です。

心理士(師)は、心理検査を実施する際に、検査結果の数値データと並行して、受検者の方の言動や態度といった様々な側面を捉えようとします。

これは、数値だけでは捉えきれない、より深いご理解と、検査結果の解釈をより豊かなものにするために重要なプロセスです。

以下に、心理検査中に臨床心理士が注目する主なポイントについてご紹介します。

検査への取り組み方・態度について

意欲・集中力:

検査に積極的に取り組んでいらっしゃるか
指示をしっかりと理解しようとされているか
集中を持続されているか

などを確認します。

努力の程度:

難しいと感じられる問題や課題に対して、粘り強く取り組んでいらっしゃるか
安易に回答を済ませようとされていないか

などを拝見いたします。

反応時間:

質問や課題に対して、すぐに反応されるか
じっくりと考え込まれるか
もし反応が遅い場合には、理解に時間を要しているのか
何かためらいがあるのか

などを考慮します。

教示の理解度

指示や説明を正確に理解されているか
必要に応じて質問をされるか

などを確認します。

検査に対するご様子

表情、姿勢、声のトーン、発汗、落ち着きなど
検査に対する緊張や安心感など

を推測することがあります。

協力性

検査者の指示に沿って検査を進めていただいているか

などを確認します。

言葉による表現について

発言内容

質問への直接的なご回答に加えて、関連するお話やご自身の体験などを話される場合、その内容や流れを注意深くお伺いいたします。

話し方

声の大きさ、速さ、トーン、明瞭さ、流暢さ

などを確認します。

  

言葉の選び方や、もしどもりや言い淀み

などが見られた場合は、それも重要な情報として考慮いたします。

感情表現

話されている内容に合わせて適切な感情が表れているか
感情の表出が少ない、または豊かであるか

などを確認します。

非言語的要素との一致

話されている内容と表情や身振り手振りが一致しているか
話されている内容と表情や身振り手振りに異なる点がないか

などを確認します。

 

言葉によらない表現について

表情

喜び、悲しみ、怒り、驚き、恐怖、嫌悪といった基本的な感情が適切に表れているか
表情の変化が少ない、または硬い印象を受けるか

などを確認します。

視線

検査者や検査用紙を適切にご覧になっているか
視線を合わせにくい、または逆に強く合わせようとされている

などの特徴がないかなどを確認します。

姿勢

背筋を伸ばしていらっしゃるか
やや前かがみになっているか
落ち着かない様子で体を動かされているか

などを確認します。

身振り手振り

話される際に身振り手振りを伴うか
その大きさや頻度、質

などを確認します。

生理的な反応

発汗、顔の赤み、呼吸の速さ、手の震えなど
緊張やご不安を示唆するような生理的な反応が見られないか

などを確認します。

その他の観察ポイントについて

服装・身だしなみ

清潔感があるか
年齢や場面に合った服装をされているか

などを拝見することがあります。

 これは、ご自身の管理能力や社会生活への適応の一側面を示す可能性として考慮いたします。

検査環境への適応

検査室の雰囲気に落ち着いていらっしゃるか
過度に警戒されているご様子はないか

などを確認します。

特異な行動

繰り返し同じ行動をする
意図せず体を動かす
ご自身を傷つけるような行動などが見られないか

などを確認します。

 

観察の意図と注意点

 心理士(師)は、これらの様々な観察を通して、受検者の方の認知機能、感情、性格の傾向、対人関係、行動の特性などを、より総合的に理解しようと努めています。

 大切なことは、一つの観察結果のみで判断を下すのではなく、検査結果の数値データや他の観察情報と合わせて、慎重に解釈を進めるということです。

 また、受検者の方の文化的背景や発達段階なども考慮に入れながら、総合的な理解を目指しています。

 心理検査における観察は、受検者の方への理解を深め、より適切な心理的なサポートを提供するための、非常に重要な過程といえるでしょう。

若手心理士のみなさんへ

私たち心理士(師)が、受検者の方の全体像を理解しようと努めるのと同様に、受検者の方もまた、検査者である私たちを観察し、信頼に足る人物であるかどうかを見極めようとしていらっしゃるという視点は、常に心に留めておく必要があるでしょう。

この点を深く認識し、受検者の方がご自身の力を最大限に発揮し、その方らしさを検査の場で十分に表現できるよう、心理士(師)としてどのように「居る」べきか。

今回の記述が、私たち自身のあり方を改めて見つめ直す一助となれば幸いです。

別の記事で、心理検査受検時の受検者の方が体験しやすい心情とそれに対する心理士に求められる姿勢についても紹介しています。あわせてご覧ください。→こちら