臨床スタートガイド

心理士”らしい”服装について考える

初めて臨床現場に立つとき、「どんな服装がふさわしいのか?」と悩んだことはありませんか?

臨床心理面接において、セラピストの服装は、クライエントさんに安心感を与え、信頼関係を築く上で重要な要素の一つです。

この人には話しても大丈夫かも」」と感じてもらえるような第一印象を整えるために、服装選びは想像以上に大切です。

この記事では、初めての面接を控えた学生の架空エピソードをもとに、服装選びの視点や工夫、考え方のヒントをご紹介します。

今回は服装に焦点を当てていますが、髪色、髪型、メイクなど、他の要素にも共通して言える内容です。

ご自身の経験にも照らし合わせて、服装について考えるきっかけになれば幸いです。

初めてのプレイセラピー(M1のAさんの場合)

大学院1年生(M1)のAさんは、公認心理師養成課程の中で初めてのケースを担当することに。

Aさん

事前学習では、心理士としての服装についても習いました。

たとえば次のようなポイントです:

  • 襟付きのシャツ
  • 華美でない服装
  • ジャケット等を羽織る
  • 清潔感のある恰好
  • パンツスタイル    等々。

Aさんが初めて担当することになったのは、10歳の小学4年生、Bさんとのプレイセラピーです。

Bさんは不登校で、厳しい担任の先生が他の生徒を叱責する様子を見て、学校に行けなくなったと保護者の方から聞いていました。

真面目なAさんは、初回面接の日、事前学習で学んだ通り、「襟付きのシャツ」に「ジャケット」を着て相談室に現れました。

すると、相談室のスタッフである公認心理師・臨床心理士のCさんに声をかけられます。

Cさん

Cさんとのやりとり:服装の目的を考える

Cさん
Cさん
今日は初めての面接ですね
Aさん
Aさん
そうなんです。緊張しています。
Cさん
Cさん
緊張しますよね。ところで、今日はプレイセラピーでしたよね?今日そのジャケット姿は、どんな意図があって選ばれましたか?
Aさん
Aさん
え?……えっと……ケースでは“ジャケットが基本”って教わったので…

ここでCさんは、Bさんの情報を踏まえて、Aさんに問いかけます。

Cさん
Cさん
習ったことを実践しようとしている姿勢はとてもすばらしいです。ただ、今日予定しているケースの事前情報は頭に入っていますか?
Aさん
Aさん
もちろんです。ちゃんと受付記録も読みました。
Cさん
Cさん
では、Bさんの視点にたって、ここに来ることを想像してみましたか?
Aさん
Aさん
それは…
Cさん
Cさん
一旦Bさんの視点にたって、思いを馳せてみましょうか。

あなたがAさんだったらどんな格好で出迎えますか?

ただの服装一つまで考えないといけないなんて…!!!
習った通りにしておけば間違いないんじゃないの!?

と思われた方もおられるかもしれませんね。

みなさんがAさんだったら、どんな服装で相談室に出向きましたか?

上記のやりとりを経て、Aさんはどんな答えを導き出すのか、Cさんはそれに対してなんと応答するのか、見てみましょう。

Bさんの視点で思いを馳せる

Aさんは戸惑いつつも、次第に以下のような想像を膨らませていきます。

  • 緊張して来るのではないか

  • 怖い先生のような人だったら嫌だと感じるかもしれない

  • 優しい人だと安心するかもしれない

そして、はっと気づきます。

う~ん。自分がBさんだったら、とても緊張してくると思う。担当の人が、どんな人なんだろう、学校の先生みたいに怖い人だったら嫌だな、とか考えたりするかもしれない。
Cさん
Cさん
うんうん。そうかもしれないですね。
Aさん
Aさん
優しい人だったらいいな、男の人かな女の人かな、お母さんと離れないといけないのかな、とか考えるかもしれない
Cさん
Cさん
そうですね。きっと思うことは一つだけじゃないし、色んな思いを抱えながら、来てくれるんだと思います。そんなBさんがここにたどり着いて、出迎えてくれた人の印象を左右するのは何でしょう
Aさん
Aさん
見た目、表情。服装…
Cさん
Cさん
見聞きした色んな情報からこの人は大丈夫そうな人か、判断しますよね
Aさん
Aさん
そう考えると、僕(私)の今日の格好は、Bさんにとって“学校の先生”っぽく、ちょっと堅苦しく見えてしまうかもしれない…
Cさん
Cさん
Aさんの学びを体現しようとする姿勢はとても素晴らしいし、今このいくつかのやりとりの中で大事な発見もありましたね。

権威的な先生をきっかけとして不登校となったBさんに、同様の体験をさせずに関係を築こうとする配慮。まだ面接まで時間はあるけど、何か工夫できそうなことはありそうですか?

Aさん
Aさん
…とりあえずこのジャケットは脱いでみておこうかな…
Cさん
Cさん
それも良いと思います。ただ、一つ言っておきたいのは、

『プレイセラピー=ジャケットを着ない!』

という方程式だけが正解じゃないよ、ってことです。

ケースを読み解き、自分のスタンスを言語化する

Aさん
Aさん
(困惑)どういうことですか?
Cさん
Cさん
今日私は最初に、Aさんに”今日そのジャケットを着てきた意図は?”と尋ねましたね
Aさん
Aさん
はい、間違ったかな、とドキッとしました
Cさん
Cさん
あの時Aさんはそう習ったからと答えましたね。

でも、もしあの時Aさんが『今日予定のBさんは、権威的な大人への怖さがある方みたいなので、こんな風にジャケットを着て一見権威的そうな人でも大丈夫な大人もいるよ、というのを示せたらいいなと思ったので、この格好で来てみました』なんて答えたら、なるほど~と思ったかもしれません。

Aさん
Aさん
…!!!そんな捉え方もあるのか!!!
Cさん
Cさん
要は、そのケースをどのように見立てて、どのような人として出会おうとしているか、自分で言葉にして説明できる、ということが大事だと私は思っています
Aさん
Aさん
心理士さんはそんなところまで考えてクライエントさんに会われているのか…!!

とても勉強になりました。なんか、あんまりよく考えずに「習ったから」という一点だけでこの服装を着て来たことがちょっと恥ずかしいです。

服装選び一つをとっても、すべてがクライエントさんに還元されるし展開に影響する、ってことですよね。がんばります。

心理士の服装選び:シンプル思考のフローチャート

以上のAさんとCさんのやりとりを見て、みなさんどんなことを感じられたでしょうか。

2人のやりとりを見て、読み始めた時より混乱が増した方もおられるかもしれません。

そこで、今回は判断基準の一つとして、私の服装の選び方を超単純化したフローチャートでご紹介します。

もちろん、どんな場面でも例外というのは存在しますので、あくまで参考に留めていただくと良いと思います。

洋服選びのフローチャート

Q1 制服はあるか。

 あり → 制服を着用。

 なし → Q2へ

余談ですが、制服(白衣)などが支給された場合でも、「権威的に見えるから着ない」という選択をする心理士さんも多くいます。これは、どのような人物として目の前のクライエントに会いたいか、熟慮されていることの表れだと感じます。

Q2 職場の規定はあるか。

 あり → 規定に従う。

 なし → Q3へ

もし、入職先の職場が心理士を初めて雇うという場合、あなたがユニフォーム選びを任されることもあります。その職場の風土や組織の性質、そしてその中で心理士としてどのような存在でありたいかを言語化すると、自ずとどのようなユニフォームが良いか、選択肢が絞られてくるはずです。

Q3 対象は大人か?子どもか?

 大人  → 基本はオフィスカジュアル。

*クライエントがビジネスマンであれば、ジャケット着用がベター。

*対人緊張が高めの方であれば、柔らかい色味でカーディガンスタイルなど。

 子ども → Q4へ
Q4 検査実施か?それともプレイか?

 検査 → オフィスカジュアル寄り。

*視覚刺激に弱い子もいるため、落ち着いた色味で無地の服がベター。
*千鳥格子柄やチェック柄、細めのストライプ柄などは、柄酔いさせる可能性もあるので避けた方が良い。

 プレイ → 動きやすいカジュアルな服装,パンツスタイル。

スカートスタイルでプレイをする心理士さんもいますが、動きやすさの観点から、個人的にはパンツスタイルをおすすめします。

まとめ:心理士”らしい”服装とは?

以上、いかがでしたでしょうか。
みなさんの臨床場面での服装選びの参考になれば幸いです。

最後に
タイトルにわざわざ「心理士”らしい”」とつけたことに疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれませんね。

それこそが今回この記事で最もお伝えしたかったこと、そのミソです。

ここまでの文章の要所要所で出てきていることでもありますが、結局何が言いたかったかと言うと、

“心理士”らしい”服装とは”目の前のクライエント、ケースの様相を見立てたうえで、どのような人物として出会おうか考え抜かれて選ばれた服装

ということになります。

服装に限らず、
なぜ自分が臨床場面でそのような言動を選んだのか、それがクライエントにとってどのような臨床的意味を持つのかを説明できるようになることこそが、心理士としての専門性につながる、と私は思っています。

そのためには、日頃から、ご自身の言動に意味づけをする練習をするのもお勧めです。

そのための一つの足掛かりとして、上記フローチャートをご参考にしていただけたら幸いです。

この記事をご覧いただいた皆さまへ

本記事は、心理臨床の専門家の方々を対象として執筆しています。専門的な内容を含むため、心理臨床を専門としていない方には、少しわかりにくく感じられるところがあるかもしれません。できるだけ誤解のないように、丁寧に言葉を選びながら書いております。ご理解いただけますと幸いです。

また、本サイトの内容は、医療行為・診断・治療を目的としたものではなく、一般的な情報提供を目的としています。個別のご相談には対応しておりませんので、あらかじめご了承ください。

執筆者:Tic. & Ket.(臨床心理士・公認心理師)

臨床心理士・公認心理師
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「Ticket.」は、切符のように新たな選択肢や視点を得るきっかけになればと名付けました。 臨床を歩み始めた方へ、明日からの臨床実践に役立つヒントを発信しています。